ふわふわとしたやさしい食感に、甘くしっとりした味わいが魅力の「カステラ」。日本では幅広い年代に親しまれ、和菓子店やスーパー、コンビニなど、さまざまな場所で手に入れやすいお菓子として定着しています。しかし、その由来をさかのぼると、実は海外から伝わったお菓子だということをご存じでしょうか。
今回注目するのは、そんなカステラの「漢字表記」。普段はカタカナで表記されることが多いカステラですが、実は歴史上、当て字を含めた多様な漢字で書かれてきたという興味深い背景があります。本記事では、カステラの漢字表記がどんな種類があるのか、どうしてそんなに多いのか、そして「ベビーカステラ」や中国語での表現についても掘り下げていきます。
1. カステラは日本の伝統菓子? それとも外国からの洋菓子?
- ポルトガル起源のスイーツ
- 16世紀頃、南蛮貿易の盛んだった長崎にポルトガル人が伝えたとされる
- ポルトガル語の「Castella(カステーラ)」が由来といわれ、スペインの「カスティーリャ地方(Castilla)」にちなんだ名称という説も有力
- なぜ日本の味になじんだのか
- 卵と砂糖、小麦粉を使ったシンプルな材料ゆえ、当時の日本人にも受け入れやすかった
- カステラ誕生当初は高級品だったが、江戸・明治を経て次第に一般にも浸透し、今や定番のお土産としても有名
このように、海外発祥ながら日本文化に深く根を下ろしたカステラは、文字通り「和洋折衷」の菓子として長い歴史を紡いできました。その歴史の中で当て字をはじめ、さまざまな漢字表記が生まれたのです。
2. 漢字表記がこんなに多い? カステラの表記が増えた背景
実は、カステラを表す漢字は6種類以上確認されており、時代や地域、文献によって違う表記が登場しているのが特徴です。これには以下のような理由が考えられます。
- 外来語の音を漢字にあてはめる慣習
- 江戸時代にはカタカナがまだ普及しておらず、ポルトガル語を漢字で表現するしかなかった
- 「音読み」に近い漢字を組み合わせて、できるだけ元の音に近い表記を生み出そうと試行錯誤
- 文献や流行による表記の変化
- 各地でさまざまな菓子の広告や案内が作られるうちに、異なる当て字が自然発生的に増加
- 当時の料理書や、老舗菓子店の包装紙などに独自の表記が採用され、そこからさらに広まった
- 装飾や語呂合わせの楽しみ
- 単なる音写だけでなく、文字の見た目や意味をこだわって作った当て字も少なくない
- “縁起の良さ”や“高級感”を演出する目的であえて難解な漢字を用いるケースも
3. 代表的なカステラの漢字表記一覧と由来
数ある漢字表記の中から、特に有名なものをいくつかピックアップしてみましょう。その背景や使用されていた文献も含めて解説します。
3-1. 「家主貞良(かすてら)」
- 由来:
- 江戸時代の文献『諸国板行帖』に登場
- 「家」「主」「貞」「良」を順番に読むと「カ・ス・テ・ラ」という音を表せる
- 使用例:
- 広告文や包装紙に「家主貞良 一本限り五十銭」などと記載していた時期がある
- 老舗カステラ店の福砂屋でも一時期、この表記を包装に使っていたという話が伝わる
3-2. 「加須底羅(かすてら)」
- 由来:
- 江戸時代中期の『和漢三才図絵』で言及
- 文字それぞれが音読みしやすく、初めて見る人でも比較的わかりやすい当て字
- 使用例:
- 古い料理書に「加須底羅 作り様」といった項目があり、家庭で手作りカステラを楽しむ様子をうかがえる
3-3. 「粕貞羅(かすてら)」
- 由来:
- 『酒井様御菓子値段帳』に記述があり、「粕」で“カス”の音を代用
- 値段表として「粕貞羅 上 一本 銀三匁五分」などと書かれていた
- 特徴:
- 「粕(かす)」の漢字を含むことで、当時は珍しさとインパクトを与えたと考えられる
3-4. 「春庭?(かすてら)」
- 由来:
- 『古今名物御前菓子図式』に登場する表記
- “春”の字が「カス(かす)」を連想させるように使われており、地域名との関係説もある
- 注目点:
- この文献ではカステラの製法を重要視する記述があり、菓子作りの秘伝として扱われていた
3-5. 「角寿鉄異老(かすてら)」
- 由来:
- 史料『原城紀事』で確認される特殊な五文字表記
- 音を再現しつつ、やや複雑な字面になっているのが特徴
- 使用例:
- 「角寿鉄異老 長崎銘菓」のように、地名(長崎)とともに紹介された形跡が見られる
3-6. 「卵糖(らんとう or たまごとう)」
- 由来:
- 夏目漱石の小説『虞美人草』などで登場
- “卵”と“砂糖”という材料を組み合わせた意味重視の表記
- 背景:
- 作中で「チョコレートを塗った卵糖を頬張る」とあり、当時のカステラの食べ方を連想させる
- 他の当て字が“音”重視なのに対し、こちらは“材料”を表す独自路線
4. ベビーカステラに漢字表記はあるの?
- 特別な当て字は存在しない
- 屋台やスーパーなどで見かける「ベビーカステラ」については、固有の当て字は確認されていない
- 漢字で表すとすれば「子供向けカステラ」のような説明的表記になるが、実際にはほとんど使われない
- 理由:
- 小ぶりで焼きやすい形状やコンパクトさがメインの特徴であり、わざわざ複雑な漢字を当てはめる文化が発展しなかったと考えられる
- 普段からカタカナ、または「ベビーかすてら」とひらがな表記されることが一般的
5. 中国語では「蛋?(ダンガオ)」と呼ばれる理由
- 「蛋?」の意味
- 中国語で「蛋?」は“ケーキ”全般を指す言葉
- 「蛋」は卵、「?」は粉類を使った菓子全般を示すので、カステラにもよく当てはまる
- 「長崎蛋?」表記も存在
- 台湾や中国の一部地域では、日本風カステラを特に「日式蛋?」や「長崎蛋?」と呼ぶことがあり、発祥地である長崎の名が取り入れられている
海外から見れば、日本のカステラは「日式ケーキ」として広く認知されており、国によっては日本の伝統菓子というイメージが強いようです。
6. カステラという名称の由来と、漢字表記の未来
- カステラの語源
- 一説には、スペインの「カスティーリャ(Castilla)」地方が元になり、ポルトガル語で「カステーラ(Castella)」に変化したものが日本へ伝来
- 日本語に溶け込む過程で「カステラ」と定着
- 現代での役割
- 今では「カステラ」のカタカナ表記が最も一般的で、商品パッケージや店頭でもカタカナ表記が主流
- 老舗店の中には、時代を感じさせる当て字を包装紙や看板にあしらうところもあり、その伝統的な雰囲気が人気のポイントにもなっている
- SNS時代における漢字表記の再発見
- 若者を中心に、珍しい当て字を使った投稿が増え、「家主貞良を食べたよ!」などとSNSにアップされることがある
- このような動きが、逆に歴史ある当て字を現代に蘇らせるきっかけにもなっている
7. まとめ
最後に、この記事で取り上げた内容を簡単に整理しておきましょう。
- カステラの漢字表記
- 6種類以上もの当て字が存在し、「家主貞良」「加須底羅」「粕貞羅」「春庭?」「角寿鉄異老」「卵糖」など、時代や資料によって呼び方が異なる
- いずれも、外来語を漢字化するという江戸時代の慣習や遊び心から生まれたもの
- ベビーカステラの漢字表記
- 特に定着した当て字はなく、カタカナやひらがなで表記するのが一般的
- 中国語での呼び名
- 「蛋?(ダンガオ)」はケーキ全般を指す言葉で、カステラもその一種として扱われる
- 「長崎蛋?」などの名称で、日本のカステラが中国語圏に定着している例もある
- 語源と今後の展望
- カステラはスペインの地名に由来する外来語でありながら、日本文化の中で独自に発展してきた
- 現在はカタカナ表記が主流だが、老舗やSNSでは伝統的な当て字が再注目を浴びる傾向も
カステラといえば日常的に食べられるスイーツという印象がありますが、実はその背後に深い歴史とバリエーション豊かな漢字表記が存在しています。和と洋が交差する中で生まれた多彩な文字表現は、日本語の面白さと柔軟性を示す好例といえるでしょう。
老舗の包装紙や古い文献に登場する当て字のカステラを見つけたら、ぜひその背景に思いをはせてみてください。甘い香りとともに、当時の文化や風習を感じるきっかけになるかもしれません。こうしたちょっとした豆知識を知っていると、ふとカステラを手に取ったときに、より一層その魅力を味わえるのではないでしょうか。
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