日常会話やビジネスの場で、「よろしく」「宜しく」というフレーズを見聞きする機会は多いでしょう。とりわけ、「宜しくお願い致します」という言い方はメールや文書の締めくくりでよく用いられています。しかし、この表現は正しいのでしょうか?また、「よろしく」と「宜しく」にはどのような違いがあるのでしょう?
本記事では、「よろしく」という言葉の由来や正しい使い方と、「宜しくお願い致します」が誤用とされる場合の理由について解説します。公的文章やビジネスシーンで失礼にならないよう、正確な意味と表記ルールを把握することが大切です。
1. 「よろしく」の意味・使い方の基礎
1-1. 「よろしく」が持つ主な意味
日本語で「よろしく」は、依頼やお願いをするときに便利なフレーズです。丁寧に挨拶をしたり、支援を仰ぐ場面でよく使われ、下記のような状況で頻出します。
- 「今後ともよろしくお願いします」:継続的な関係を望む
- 「○○さんによろしくお伝えください」:第三者への伝言として
- 「検討よろしくお願いします」:何かについて対応や判断をお願いする
このように、「よろしく」には「適切に」「問題ないように」という含意と「相手にお願いする」ニュアンスが混じり合い、人間関係を円滑にする一種の定型表現として位置づけられています。
1-2. 「よろしくお願いします」の由来
古くは「よろしきように(してください)」の省略形と言われ、「相手に対し、物事を適切に計らってもらう」「この先も円満にやりとりを続けたい」という礼儀正しい気持ちが込められています。普段の会話ではカジュアルに使いますが、書き言葉やビジネスレターでは丁寧な文章にし、「よろしくお願いいたします」や「どうぞよろしくお願い申し上げます」と表現するのが一般的です。
2. 「宜しく」と「よろしく」の表記問題
2-1. 二つの表記に意味の差はある?
- 「宜しく」
漢字の「宜」を使った表記。意味としては「適宜」「よろしきように」といったニュアンスが含まれるが、当て字的な性格が強い。 - 「よろしく」
ひらがなの表記。公的文章や正式なビジネス文書では、こちらの形が勧められる。
実質的には「宜しく」も「よろしく」も意味面で大差はありません。しかし、常用漢字として「宜(ギ)」は認められていても、「よろし」として使うのは当て字になるため、公的にはひらがな表記を用いるほうがベターとされます。
2-2. なぜ「宜しく」が使われるのか
長年の慣用により、「宜しくお願い致します」などの表記が一部で定着しています。特にオフィスメールやSNS上で見かける場合も多いでしょう。これは日本語の古い文献や文語表現の名残とも言われ、“改まった雰囲気”を出すために漢字を使う傾向があったからです。
3. 「宜しくお願い致します」は誤用?
3-1. 問題視されるポイント
「宜しくお願い致します」という表現がしばしば「誤用では?」と指摘される理由は2つあります。
- 「宜しく」という漢字表記
- 先述の通り、「宜」は「ギ」の読みであり、「よろし」と読むのは当て字扱い。そのため、公的文書や正式文章で用いるのは避けるのが一般的。
- 「お願い致します」の敬語使い方
- 「お願い致します」という語は、さらに敬語として「お願いいたします」「お願い申し上げます」などが正統とされる場合がある
- 「致す」という動詞をどの場面でどう使うかにも注意が必要
3-2. 結論:全くの誤りとは言えないが…
一般的なメールや日常レベルの文書では、厳密に間違いというわけでもなく、受け手もほとんど違和感を抱かないでしょう。しかし、公式のビジネス文書や契約書などでは「よろしくお願いいたします」とひらがな表記に揃える方が安心です。
4. 「致します」と「いたします」はどう違う?
4-1. 「致す」のもともとの意味
「致す」は「~を行う」という意を示す謙譲語(謙譲語I)です。
- 例:「私が伺います」→「私が参ります」「私が行くのをいたします」
- 例:「会議の準備を致します」→「準備を行うのは私が担当します」という謙譲表現
4-2. 補助動詞としての「いたす」
「~いたします」というのは補助動詞で、敬意を表す使い方です。
- 例:「ご連絡いたします」=「連絡する」という行為を相手に対してへりくだる形で述べる
- 例:「ご案内いたします」なども同様
結果として「お願い致します」「お願いいたします」では、「お願いする」という動作を敬語にしたもの。公的には「お願い申し上げます」なども使われるが、いずれも相手への敬意を示す言い回しです。
5. 「宜しくお願い致します」の正しい使い方
5-1. ビジネスメールでは?
- 推奨: 「よろしくお願いいたします」
- 丁寧な印象を与えやすい
- 漢字を多用せずシンプルに
- 一部容認: 「宜しくお願い致します」
- 社内メールや先輩へのフランクなコミュニケーションで使われることもある
- ただし、正式文書には向かない
5-2. 言葉遣いにおける注意点
「お願い致します」を更に丁寧にするなら「お願い申し上げます」。状況に応じて「ご検討よろしくお願いいたします」「ご対応をお願い申し上げます」などと言い換えると、ビジネスシーンで好印象を与えられます。
6. 場面別のおすすめ表記・表現
6-1. 公的・正式な文章
- 「よろしくお願いいたします」
- ひらがな+「お願いいたします」という形式が定番
- さらに丁寧に「何卒よろしくお願い申し上げます」と書くこともある
6-2. メールや手紙で軽めの文面
- 「よろしくお願いします」
- 簡潔でカジュアル
- 社内メールや友人宛てでも十分使える
6-3. プライベート、口頭でのやりとり
- 「よろしくね!」
- 親しい相手への気軽な依頼
- 口語的で砕けた表現
7. まとめ:どちらを使うべきか
- 「宜しく」と漢字で書くか、ひらがなで「よろしく」とするか
- 意味上の大きな違いはないが、公の場では「よろしく」が推奨される
- 「宜しく」はやや古風・慣用的なイメージがあり、正式なビジネス文書では避けることが多い
- 「お願い致します」はどうなのか
- 「お願い致します」も誤りではないが、やや古い表現
- 改まったビジネスシーンでは「お願いいたします」「お願い申し上げます」がより適切
- 結論:ビジネスは無難に「よろしくお願いいたします」
- 特にメールや公式書類では、この形がスタンダード
- 漢字を交えて書くと堅苦しさや古めかしさを感じさせる場合もある
日本語の敬語や表現は多様ですが、とくにビジネスの場合、あまり複雑な漢字を使わず、一般的に通じるひらがな表記が好まれる傾向があります。「宜しくお願い致します」自体は多くの人に理解されるものの、公的文章では「よろしくお願いいたします」の方が無難で失礼もありません。いずれにせよ、相手や場面に応じて言い回しを選び、誤解や違和感を与えないコミュニケーションを心がけることが重要です。
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